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日記:三日目:ピント

指導教官との面談なので早めに家を出る。扉を開けると空気が生暖かい。体温と同じか、やや低い程度と感じたけれど、本当にそうだったら猛暑だから、顔の表面が冷えていたか温覚は当てにならないのか。刺すような風から撫でるような風になった。

 

ひとことで言うと努力のやり方が間違っていた。とあるジャーナルを端から根気よく読んでいたが、テーマのアニュアルレビュー20年分とハンドブックを洗ってとにかくピンとくる論文に出会うようアドバイスをもらう。

 

本当にこれをやりたいのかと問われることから始まった。熱意を疑われるのは、努力の様式か表現の様式がここのやり方とずれているからだろう。情熱と呼べるほどかは自信がないが、理由は持っているつもりだった。

先生が修士や博士の論文テーマを掘り下げていった手順を尋ね、自分は裾野を広げることばかりしていたのだなと考える。画角を広げてもぼんやりとした写真しか撮れない。大きなテーマを掲げた浅い新書になってしまう。大きくても鮮明な写真は熟練しないと難しい。長年携わった専門家が集大成としてなら広い現象をきちんと論じられるかもしれないが、修士論文は一年で書かなければならない。ピンとくるピントを早く見つけよということなのだろう。………

 

 

しおれた気持ちで外に出ると昼近くなっていた。風が強くなっていて自転車が倒れている。

薄暗い院生室に入ると自分の棚に白い紙袋が置いてあり、絵葉書が二枚と薄茶色の包みが入っていた。スペインで長旅していた友人が帰ってきたようだ。片方の絵葉書には小さな字でびっしりと旅の様子が書かれていて、ジローナという小さな街の石畳と路地裏に光が差し込んでいる写真だった。もう一枚はピカソの絵で裏返すとLa Alboradaと記されている。光と影が色濃い国なのかなと想像した。

今日はめずらしく4人も入れ替わり人が来て、たわいもない話をたくさんした。にぎやかになってきたので昼のうちに大学を出る。風が強い。